先日、
JICA地球ひろば主催で行われた「難民支援とコロナ・感染症対策(エチオピアとアフガニスタンの事例から)」と、
ADAPT主催で行われた「Volunteering in Greek Refugee Camp」という2つのオンラインセミナーで得た知識と独自に調べたり勉強した内容を合わせて、ここでまとめてみようと思います。
*ADAPTとはPhysiotherapists for Global Health=グローバルヘルスのための理学療法士の集まりで、イギリスの理学療法協会(Chartered Society of Physiotherapy, CSP)公認の団体です。年会費20ユーロで誰でも会員になれます。国際的に活動したい人、途上国で人道支援に関わりたい人の参加を求めています。(会員登録はこちら→https://adaptcsp.co.uk/join-us/)
JICA地球ひろばのセミナーでは、難民とは?や難民支援の現場の幅広い話を聞きました。ADAPTのセミナーでは、難民キャンプで理学療法士としてボランティア活動を行った方の話を聞きました。難民に関しては、これまで身近に感じる機会がなく、勉強もしたことがなかったので、この2つのセミナーでは新しい発見だらけでした。
難民とは、祖国から逃れて難民キャンプのような劣悪な環境で、ギリギリの生活をしている、というイメージを私は持っていました。しかし、難民と言っても様々で、都市部に暮らし、仕事をしている人もいると知りました。私がイメージしていたような難民は、UNHCRやその他NGOが支援をしており、支援の種類には保護、シェルター、水・食料、衛生、教育、保健・医療など多岐にわたります。
現在、UNHCRではCOVID-19の対応に予算が使われ、医療支援に充てられる予算が減っているそうで、結核・マラリア・HIV対策やその他ヘルスケア・メンタルケアへの対応に遅れが出ています。また合法難民と非合法難民で受けられる支援に差があります。
難民キャンプでボランティア活動していた理学療法士の報告の中では、足部の感染症や、暴力による骨折(警察によるものも!)、銃撃による脊損、また元々の障害などに対応したとのことでした。医療へのアクセスが限られており、遠くからリハビリテーションサービスを求めて車いすを押して子供を連れてきた母親の話や、1年以上前の骨折の未治療初診患者の話などもありました。
求められる知識や技術の話では、前述のように外傷、感染症、小児、脊損など幅広く、ジェネラリストでなければいけない、とのことでした。普段の臨床では、限られた疾患を見ることが多いですが、難民支援や災害支援などの人道支援活動においては、このように幅広い知識や技術が試されるので、一理学療法士として成長できるチャンスである、と話しがありました。「これが人道支援に関わる利点である」とのコメントもありました。
理学療法士による難民支援に関してはPREPで2021年1月18日からオンラインコースが始まる予定になっているようです。PREP(理学療法と難民に関する教育プロジェクト)では、増加する難民に対するリハビリテーションニーズに応えるために、理学療法士の能力向上を行い、複雑化する支援ニーズに対応できるようにしようと、教育プログラムが開発中です。
世界の難民はこの10年でおよそ2倍に増加し、2019年の統計では約8000万人いるとされています。今後、もっと増えるのか、減るのか、分かりませんが、災害支援よりもニーズは多いのではないかと思います。これからも、難民支援に関してもう少しアンテナを張っていこうと思います。
(2020/10/29追記)
オンライン開催になった第54回日本作業療法学会の、非公式関連イベントとして国際リハビリテーション研究会が実施した「作業療法学会国際協力セッションZoom延長戦」に参加しました。ここでヨルダンが受け入れているシリア難民への支援に携わった作業療法士の発表を聞きました。
ヨルダンではシリア難民の多くは都市部に住んでいるそうです。都市部であるため、舗装された道はありますが、舗装されていても亀裂が入っていたり、穴が空いていたりと、障害者にとって決してアクセスが良いという状況ではないようです。
また家賃が安いところに住むため、難民は地下やマンション高層部(ヨルダンでは高い所のほうが家賃が安い)に多いそうです。そのため、障害者は家の中から出る機会が減ります。難民という立場からヨルダンに居場所がなく、孤立する原因になっています。
精神科領域の教育を受けている作業療法士でも、日本で障害者と接するのと、紛争により障害者となった人と接するのは大きく違い、苦労があった、とのことでした。紛争、つまり人と人が殺し合う中で生まれた障害者、というのは私たちが想像するよりも深い、目に見えない傷もあるようです。
作業の特性を生かした介入を考えて取り組んでいたそうですが、セルフケアに対する介入はリハビリテーションではなく看護の領域だと言われ、介入に苦労した話もありました。