<マンパワーになりながらでも地道に教えていこう>
派遣前は、現地の人々と共に働き、ドミニカ共和国に足りないものを見つけ、直接指導し、理学療法の質を上げていこうと考えていました。一緒に働かないと、現地の人と同じ目線に立たないと問題は見えてこないと思い、マンパワーでもいい、という覚悟でした。
<大学教育を変えなくては>
しかし派遣後、活動を初めてすぐ、現地スタッフの技術レベルの低さももちろんですが、基礎知識の欠如が指導の大きな妨げになりました。個別に少しずつ教えていけばよい、と思っていたのですが、個別では到底追いつかない莫大な基礎知識を教えないといけないことに気づきました。大学での教育レベルの向上が必要だと感じました。
<国語・算数もできないんじゃ話にならん>
ドミニカ共和国には様々な職種のJICAボランティアや専門家が派遣されています。小学校教諭として派遣されているボランティアの話を聞いたとき、大学教育はもとより、初等教育から質が低いことを知りました。学校の先生が分数の計算を理解できない、分度器の使い方が分からない、というレベルです。大学の理学療法士学科に入るためには入学試験がありますが、数学の点数が悪くても、大学で数学の授業を受ければいいらしいのです。つまり、入学者を選ぶ試験ではなく、入学者の入学後の必須科目を決めるための試験なのです。初等教育の質向上が必要だと感じました。
<でも何とか現状を変えなくては>
「教育が悪いからだ」と結論づけると、理学療法士にすることはない、ということになってしまいます。しかし、何もしないわけにはいきません。目の前に患者がいて、理学療法という名のものが患者に提供されているのです。よって、「医原性障害をできるだけ減らす」という目標を立てました。そのためには、愛護的に・丁寧に触る、関節を傷つけないよう運動学に基づいて動かす、理学療法士の体全体を使うなどの運動療法の基礎を教えようとしました。これらは各種の関節運動学的アプローチ(AKA)の基本概念としても知られています。(*日本はAKAを基に改良を重ね、新たな知見を加味した診断・治療技術としてAKA博田法というものがあります。)
<スタッフの変化に手ごたえ>
運動療法の基礎や触り方・動かし方などを指導したのですが、多少の改善はあるものの臨床で使えるレベルには決してなりません。それでも、指導したスタッフの仕事は丁寧にはなりました。下手でも丁寧にすることは非常に大切だと思います。丁寧に仕事をすることが上達への近道だと思い、指導を続けようと思いました。
<「日本では…」と言い続けていいのか?>
ドミニカ共和国の理学療法の質は低い、と繰り返しこのブログでも書いてきましたが、では日本の理学療法の質は高いのか? と考えることがありました。友人の話や自分の目で見たことなどを総合すると、正直な所、「ドミニカ共和国の理学療法士と同じレベルの理学療法士が日本にもいる」と言わざるを得ません。もちろん素晴らしい理学療法士もいます。しかし、JICAボランティアに応募する理学療法士の中に、能力のない理学療法士が混ざってくる可能性があるのです。よって、日本においては、理学療法士の質の向上をこれから更に推し進めていかなければいけないと考えます。国際協力を志す理学療法士に、きちんとした知識と技術を身につけてもらわないと、今のままでは能力のない理学療法士が国際協力に携わることになると思います。
こういう事を書いている私ですが、私自身、能力のある理学療法士とは言えません。理学療法の基礎ですら教えることができません。上辺だけの知識と、それに基づいた技術で仕事をしていたことが、ドミニカ共和国での経験ではっきりしました。日本に戻ったら、理学療法、すなわち運動療法・物理療法・基本的動作訓練について、基礎から勉強をし直そうと思います。ステップアップのためのステップダウンです。