スフィアハンドブックは2000年に第1版、2004年に第2版、2011年に第3版が発行され、各版は日本語に翻訳され公開されてきました。
(参考)スフィアハンドブック第3版 日本語版
そして今、第4版の2018年夏発行を目標に改訂作業が行われている最中で、その草案が先日公開されました。草案公開に合わせて、変更点などを共有しディスカッションするために、ウェビナー(web + seminar = webinar)が開催され、私もリアルタイムで参加しました。
(参考)ウェビナーの模様 Revising the Sphere Handbook: What is new and how you can contribute
人道憲章(the Humanitarian Charter)や基本理念などの大きな枠組みは変更されませんが、「スフィアとは?(What is Sphere?)」の部分の内容が増強されます。
そして、すでに発行されている他のガイドラインとの整合性を向上させるよう配慮されているようです。例えば「人道支援の必須基準(Core Humanitarian Standard)」はスフィアハンドブック第3版が発行された後の2014年に作成され、第4版ではその「9つのコミットメントと基本行動(9 Commitments and Key Actions)」はそのまま「コア基準(the Core Standards)」の章に受け継がれるようです。
また、翻訳された時に、正しく理解してもらうため、分かりやすい言葉を使うように努めているようです。ちなみに日本語版の作成は第2版と第3版で別の団体が行っています。第4版は誰が翻訳するか分かりませんが、簡潔な英語で書いていただいていると翻訳者は助かりますね。
各章の構成も新しくなっています。指標と目標値を別に記載し、特定の数値(specific numbers)を書かずに参考値(threshold)を記載するに留め、状況に応じて目標値を考えるようにされています。
大枠の変更の他に、各章の改訂もされていますので、下記のページの後半にあるGet the draft standardsから確認してみてください。
(参考)改訂版草案1 http://www.sphereproject.org/handbook/revision-sphere-handbook/draft-ready-for-feedback/
このウェビナーはAdobe Connectを使って行われました。参加人数や参加者の名前がサイドバーに表示され、プレゼンテーションを聞きながら、コメントのやり取りもできます。リアルタイムで質問して発表者が答えたり、後日返答したりすることができるシステムです。今回は参加者が110人前後を行ったり来たりしていました。参加者の名前を見ていると日本人らしき名前は私ともう一人いました。ちなみに発表者の一人は日本人だったのですよ。
コメント欄には英語での書き込みの他、フランス語も使用されていました。数回アラビア語かな、という書き込みもありました。スペイン語では誰も発言していなかったと思います。こういう国際的な場での言語はやはり英語とフランス語なのかな、と感じました。
青年海外協力隊(2011年~2013年、ドミニカ共和国)、国際緊急援助隊(2019年4月、モザンビーク)で理学療法士として活動しました。 一理学療法士が世界を舞台にできることとは何か?備えておく知識・技術は何か?青年海外協力隊のその後、緊急医療援助などを堅苦しく綴っています。 このブログを通して、同じ志を持つ人々、この道に進もうと考えている人々などと情報交換できればと考えています。よろしくお願いします。 また、世界理学療法連盟から配信されるニュースの翻訳も、当ブログで取り上げています。是非、ごらん下さい。
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2017年4月29日土曜日
2017年4月23日日曜日
災害医学とリハビリテーション(DM&R)
物理医学におけるリハビリテーションは、私たちが日々臨床で行っている理学療法・作業療法という形で発展してきましたので、「物理医学とリハビリテーション(Physical Medicine and Rehabilitation, PM&R)」科という長い名前の診療科がアメリカにはあります。日本で言うリハビリテーション科は正しくはPM&R科なのですが、日本には物理医学がきちんと入ってこなかったのでPM&Rという言葉は馴染まなかったようです。
今、WHOもマニュアルを作っていろいろ動きがあるホットな分野に、「災害医学におけるリハビリテーション」があります。世界中で様々な災害が起こり、各国の支援チームが緊急援助を行っています。発災初期からのリハビリテーションにまで対応できるチームの発足が必要と認識されてきており、WHOが緊急医療チームの認証制度を作っています。日本のJDRはリハビリテーションにまで対応できるチームとして認証されており、災害におけるノウハウの整理や研究が必要だと今後は思います。
(参考)・JDR(国際緊急援助隊)医療チーム 導入研修
災害医学におけるリハビリテーションが発展し、ノウハウが蓄積されてくれば立派なリハビリテーションの一分野となると思います。その時は、私としてはリハビリテーションの歴史の流れに乗って「災害医学とリハビリテーション(Disaster Medicine and Rehabilitation, DM&R)」と名乗って欲しいな、と思っています。
このDM&Rの発展のために研究会を立ち上げました。今後、様々な活動を行えるようにしていきたいと考えています。JDRやJRAT、災害医学に興味があるPT・OTなら登録して頂けます。登録希望の方は下記の登録フォームからお願いいたします。(停止中)
(参考)・災害医学とリハビリテーション研究会 新規登録フォーム
今、WHOもマニュアルを作っていろいろ動きがあるホットな分野に、「災害医学におけるリハビリテーション」があります。世界中で様々な災害が起こり、各国の支援チームが緊急援助を行っています。発災初期からのリハビリテーションにまで対応できるチームの発足が必要と認識されてきており、WHOが緊急医療チームの認証制度を作っています。日本のJDRはリハビリテーションにまで対応できるチームとして認証されており、災害におけるノウハウの整理や研究が必要だと今後は思います。
(参考)・JDR(国際緊急援助隊)医療チーム 導入研修
災害医学におけるリハビリテーションが発展し、ノウハウが蓄積されてくれば立派なリハビリテーションの一分野となると思います。その時は、私としてはリハビリテーションの歴史の流れに乗って「災害医学とリハビリテーション(Disaster Medicine and Rehabilitation, DM&R)」と名乗って欲しいな、と思っています。
このDM&Rの発展のために研究会を立ち上げました。今後、様々な活動を行えるようにしていきたいと考えています。JDRやJRAT、災害医学に興味があるPT・OTなら登録して頂けます。登録希望の方は下記の登録フォームからお願いいたします。(停止中)
様々な活動と書きましたが、実際はまだまだ模索段階です。現在はメーリングリストを利用した情報共有や意見交換が中心です。今後は、勉強会を行ったり、WHOのマニュアルを翻訳したり、メンバーの皆で記事を書き合ってウェブサイトを立ち上げたり、などを考えています。仲間が増えることを心から願っています。
2017年4月17日月曜日
国際リハビリテーション研究会キックオフミーティング(2017/4/16)に出席して
WCPT Photo Competition 2012 |
「国際理学・作業療法学(案)」という記事を書いてから随分と時間が経ちました。少しずつその中身を作り上げて行こうという計画でしたが、実際はほとんど進んでいません。そのような折りに、国際リハビリテーション研究会キックオフミーティングが東京で開催されました。そこには協力隊同期が私の他に三名も参加しており、同窓会のようで楽しめました。この分野に熱い隊次なのだと再確認できました。
このミーティング(主催者はセミナーではないと強調していました)では「国際リハビリテーション学」という学問を自立させるべく研究会を立ち上げ、過去の実績や経験・技術をまとめたり、積み上げたり、学術的に発展したりするためにはどうすれば良いかを考える会でした。
国際看護学というのは国が定めるカリキュラムに組み込まれており、国家試験にも国際関係の問題が出題されているようです。「国際」と付くと海外での支援活動を想像するかもしれませんが、国際看護学という学問の狙いはそこではありません。「国際看護学を学ぶことでより良い看護を提供することができる。なぜなら看護の対象は『人間』であり、背景に様々な文化、風習、宗教、価値観を持っている。幅広い視点から対象者を見ることは国内外を問わず看護を行う上で重要である」ということだそうです。
これは看護をリハビリテーションに置き換えて読んでも違和感はないと思います。この観点から「国際リハビリテーション学」を解剖していくと、
宗教とリハビリテーション
文化とリハビリテーション
政治とリハビリテーション
経済とリハビリテーション
開発とリハビリテーション
災害とリハビリテーション
などに細分されるのではないでしょうか。
宗教とリハビリテーション
文化とリハビリテーション
政治とリハビリテーション
経済とリハビリテーション
開発とリハビリテーション
災害とリハビリテーション
などに細分されるのではないでしょうか。
「国際」と言われてよく想像される青年海外協力隊は、もともと私たちが持っているリハビリテーションの知識・技術に、上記の宗教・文化・開発などの知識を組み合わせて活動しているものだと私は考えます。もし役所に配属されるなら政治を知らなければならないでしょうし、貧困削減が上位目標にあるなら経済・開発を知らなければなりません。
災害に関しては、災害の種類によって、例えば、地震・津波・洪水・火災・干ばつ等にさらに細分化されるのかと思います。この辺りはまたJDRの研修などを通して考えていけたらと思います。
災害に関しては、災害の種類によって、例えば、地震・津波・洪水・火災・干ばつ等にさらに細分化されるのかと思います。この辺りはまたJDRの研修などを通して考えていけたらと思います。
このような事を私は想像していたのですが、今回のミーティングでは、国際協力を主軸に置いた考え方のようでした。協力隊などでの活動をいかに学問的に残すか、事例を蓄積していくかを重点課題としているようでした。国際協力だけを対象にするならば、「国際リハビリテーション学」という冠は仰々し過ぎると思います。実際は国際協力だけを取り扱うわけではないでしょうが、一日しかない今回のミーティングではそういう印象でした。
同期とも話したのですが、「国際」も「リハビリテーション」も扱う範囲が広く漠然とした概念です。二つ合わせて新しい概念ができるかと言うとそうではなく、今ある知識や技術の寄せ集めになると思います。寄せ集めた中から、使えそうなものを選び出し関連付けていくという作業になるのではないでしょうか。
そもそも理学療法も、解剖学・生理学・運動学などの元々ある学問を基礎に、病気を考慮して行ってきたものであり、すなわち寄せ集めです。AKA-Hも独自の発見はありますが基礎は、解剖学・運動学・関節生理学・組織学などの元々ある学問です。寄せ集めて体系化する作業は大きな苦労を伴うと思いますが、国際リハビリテーション学というものを普及させるには誰かが舵を取らないといけません。
ミーティングでは、主催者は「外枠は作った。中身はまだない。これから皆で作り上げて行く」と述べていました。しかし、前述のように中身となり得るものはすでにたくさんあって、今まで外枠がなかっただけだと考えます。その外枠を慎重に作らないと今後、混乱するのではないかと思います。外枠の議論がまだまだ必要です。中身はその後でいいので慌てずに外枠作りをしないといけないと思います。
リハビリテーションは単独では存在しません。理学療法も作業療法も「物理医学とリハビリテーション(PM&R)」という名の下で発展しました。言語聴覚療法は「耳鼻咽喉科とリハビリテーション」。このような流れに倣うと、「宗教とリハビリテーション」「開発とリハビリテーション」など、国際リハビリテーション学には先に述べたような様々な『とリハビリテーション(and rehabilitation、&R)』が出現しそうです。
「宗教とリハビリテーション」という外枠があれば、そこに過去の宗教に関する経験を蓄積していくのです。イスラム教徒の患者に対して行った配慮、キリスト教徒の患者の対応での失敗談、土着宗教の例、などなど。
DALYsやジニ係数などは「経済&R」、持続可能性や適切技術や就労支援などは「開発&R」、医療制度などの政策がらみは「政治&R」。計画立案やPDCAなどはリハビリテーションとは直接結び付かないので&Rからは切り離した方がよいのかな、と思います。
この&R案はまだまだ改良の余地があると思います。受け入れてもらうにはもう少し洗練させないといけないでしょう。今年11月に第1回学術集会をやろうと企画しているようですので、そこで改訂版&R案を披露できたらいいかな、と考えています。いろいろな人の意見も取り入れて作っていこうと思います。ご意見ございましたら、是非コメントをお願いいたします。