2011年8月17日水曜日

視点を変えて「やるべき事」から「してはいけない事」へ

 これまでの隊員の活動は「ボランティア活動報告書」というもので確認ができます。これを書くことは「派遣に関する合意書」に定められたボランティアの義務であり、一般公開されるという側面から言えば、日本国民に対する報告義務でもあります。
 その報告書は2年間の派遣中に5回提出することになります。第1号は赴任3か月後、第2号は赴任半年後、第3号は赴任1年後、第4号は赴任1年半後、第5号は帰国前、に提出します。第2号報告書に活動計画表を添付する必要があるため、これを提出する12月末までに具体的な活動計画案ができればいいなぁと思います。
 私の配属されている病院には過去5人の理学療法士が日本から派遣されています。その人たちの報告書ももちろん一般公開されており、JICA地球ひろばなどで閲覧することができます。そこに書かれた問題点と、私が思う問題点は完全に一致していました。
  NGO団体である故の資金不足。低い給与。
  患者数が多く時間がない。
  医師の指示通りのことを流れ作業のように行う。
  理学療法を行う上での基礎知識がない。
  理学療法自体の知識がない。
  患者の評価を行わない。(行えない)
  カルテを書かない。(書くことがない)
など。
 上記の基礎知識がない、というのが致命的で、数学、物理などの知識がないと、筋の評価や、動作の評価などができないですし、物理療法の意義や効果も理解できません。また解剖学・生理学はもちろん、病気の知識もないので、血圧測定、腱反射、感覚検査の目的や重要性も理解できません。これらを解決するには分度器の使い方からまず教育する必要がありますが、非現実的です。なので、患者評価をドミニカ人理学療法士に行ってもらう事は不可能かと考えます。こう、早々に「不可能」なんて言ってしまうと、問題から簡単に逃げ出しているように聞こえるかもしれませんが、実際、過去の隊員たちが懸命に評価の重要性を訴え活動してきて、結果「困難極める」と判断してきていますので、同じことを繰り返すべきではないと考えます。
 評価ができないとなると、カルテに書くことが何もありませんので、「カルテを書け」と言うこともできません。初めての患者でいろいろ検査・測定などの評価をすればカルテに書くことが盛り沢山ですが、長期の患者で特に変化を見せない場合は、カルテに「著変なし」と一言書いて終わります。評価した結果の「著変なし」です。しかし、この国の理学療法士の場合は、評価していないので「状態不明。変化分からず」というカルテを毎日書くことになるでしょう。(何もカルテは評価したことを書くためだけにあるのではないのですが、カルテについては別の記事できちんと書きたいと思います。)
 「患者さんの評価をした上で治療プランを決めましょう」という、ごもっともな助言は無意味なものになるので、これまでとは違ったアプローチを考えないといけません。例えば、安静の大切さを伝えるなど、現地理学療法士が患者に与える害をいかに減らすことができるかを目標にしてもいいかもしれません。痛みを与えながらのストレッチは有害であること、頚損の患者を急に起こしてはいけないこと、低血糖症状の人に自主トレをさせてはいけないこと、などなど。「やるべき事」を教えるよりも「やってはいけない事」を教えて、事故のないようにすることなら可能かもしれません。実際、病院内での事故がこれまでどれほどあったのかは今、知らないので聞いてみようと思います。

8 件のコメント:

  1. そこまでひどいですか・・
    難易度設定が重要ですかね。
    難しいことを教えても理解してくれなさそうですね。
    子供をしつけする親のような存在なのでしょうか・・・
    教えることが多すぎますよね。
    確かに、やっては行けない事を教えるのは、難易度も低くて、学習効果ありそうですね・・・あってほしいです。頑張ってください。

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  2. 先日、ガーナで理数科教師をしている”教授”と話した時、プライドだけ高くて、理科教育のなんたるかは、よくわかっていない先生が多くて、喧嘩しても前に進まないし…と悩んだと言ってまいた。私には詳しいことはわからなないけど、結局最後は人間力なりとしか言えない。焦らず、くじけず、夢をもって…。

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  3. KENJIさん
    こちらのPTは素人集団です。おっしゃる通り、あれこれ教えようと思うと項目が多すぎますし、理解できないと思います。初等教育からの問題なので、ドミニカ共和国の学校に派遣されているボランティアに未来がかかっているような気がします。
    いろいろな視点であれこれ考えていますが、KENJIさんも何か案があれば是非、ご教授ください。

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  4. katabira no tsujiさん
    最近、治療中に人が集まるようになりました。見よう見まねで別の患者さんに私がやることを試したり、分からないと私に質問してきたり、熱心な人が少しずつ私の周りに集まってきました。
    プライドを傷つけずに、自分の主張を提示する方法は日本の縦社会である程度学んできたので、ここでそれを活かしたいと思います。
    前に進まないことはマイナスではない、と思って、少しの前進・後退に一喜一憂しながら楽しみたいと思います。

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  5. 背中を見てもらうっていうのが、一番いいかもね。

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  6. はじめまして。現在理学療法士を目指し大学に通っており、来年就職となります。私も将来、青年海外協力隊に参加し、その後もなんらかの形で国際協力に携わっていきたいと考えています。
    将来の事を踏まえ、就職先の病院も決めた方が良いと考えているのですが、どのように決めたら良いのか悩んでいる時にこちらを見つけました。
    どのような知識・技術が必要だとお考えか、よろしければ教えて頂けたら幸いです。

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  7. kiyomiさん
    背中を見ずに、携帯電話を見ている人が多いです。笑

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  8. MIDORIさん
    はじめまして。コメントありがとうございます。
    このブログにはMIDORIさんのように国際協力をしたい理学療法士の方がたくさん来訪されます。非常にうれしい事です。皆さんのニーズにお応えできるブログにしていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。
    ご質問に対する答え、後日改めて記事にしてアップしたいと思いますので、しばしお待ちください。

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