2011年8月25日木曜日

DALYs

ハーバード大学
 病気とは罹患して終わりではありません。治療するために医療費がかかったり、病気により働けなくなったり、障害を残したり、寿命を縮めたりします。放置しても治る病気から、難治性の病気まで、非常に多くの種類の病気があることから、病気が人の人生に与える影響も多種多様です。
 ハーバード大学のChristopher MurrayらがWHOや世界銀行と協力して開発した「健康に関する経済指標」があります。Disability Adjusted Life Years=DALYs(ダリーズ)と呼ばれ、病気に罹患したことにより失われた生産活動の総和と生命の短縮を、国ごと、および疾患ごとに算出した値です。例えば、「感染症で死亡する人の数は全死亡数の25%ほどですが、感染症によるDALYs損失は全損失の30%を占める」などのように表現されたり、「外傷によるDALYs損失は全損失の12%ほどだが、14歳以下に限定すると、人口の30%を占めるに過ぎないが、50%と高い」などのように書かれたりします。
 これを利用して、例えば、
  病気A:年間の罹患者数300万人、DALYs=50
  病気B:年間の罹患者数100万人、DALYs=200
だとすると、患者数は少ないが病気Bの治療法の開発や、社会政策の実行などをすべきだと考えることができます。これは患者の数だけでは判断できません。
 また、
  病気C:1億円あればDALYsを100減らすことができる
  病気D:1億円あればDALYsを500減らすことができる
とすると、1億円は病気Dのために使われるべきだ、と考えることができます。また、「病気」を「ある病気の治療法」を置き換えても同じです。ある病気の治療法Dにお金を使うべきです。
 さらに、
  病気E:DALYs=300、これを100減らすのに20億円かかる
  病気F:DALYs=200、これを100減らすのに10億円かかる
とすると、DALYsだけ見れば病気Eを何とかしないといけませんが、対費用効果で考えると病気Fへお金が使われるべきと考えることもできます。こうなった場合はどうすればいいんでしょう? お金があれば病気Eに対して対策を打つのでしょうが、無駄遣いに厳しい世の中ですから病気Eは置いておいて、病気Fにお金が流れるのかもしれません。実際にはもっといろいろな観点で物事を決定するでしょうから、これは一つの考え方として知っておけばいいと思います。
 ところで、理学療法士とは、障害を持った患者に、障害の治療や動作訓練、代替手段の指導などをして社会復帰を促進する職種です。DALYsは国毎の疾患別の値ですが、一人の患者に絞ってみると、理学療法士の腕次第で、その患者のDALYsを下げることができると思います。国中の理学療法士の質が上がれば、DALYsの値は変化する、そんな可能性を秘めた職種だと考えると使命感が沸きますね。
 骨折のDALYsを100としましょう。そして、医師の骨折の治療技術が上がればDALYsが30減る、理学療法士の障害の治療技術が上がればDALYsがさらに20減る、としましょう。しかし、骨折の原因である交通事故を減らす活動をすればDALYsが60減るとすると、医療よりも交通マナーの問題が大きいと言えます。この国の骨折患者をみていると、医療よりも交通マナーやルールの問題だな、と思うことが多々あります。「骨折5回目です」という患者がいるくらいですから。
 というわけで、今日はDALYsからの視点で自分の仕事について考えてみました。

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