2020年2月27日木曜日

【JADM25発表内容】③成果、課題

②症例報告 からの続き

成果をまとめるとこのようになります。杖はなぎ倒されたキャッサバを使用することで、環境負荷が少なく、不要となれば自然に返すことができます。地面に刺せば育てることもできると思います。

椅子も現地で容易に入手できる段ボールを使用し、作成するところを現地の人も見ていたので、もし破損しても自分たちの力で作り直すことができると考えます。

障害を有する人たちは、災害による影響をより受けることになるため、発災前から障害を有する人にリハビリテーションを行うことができたことは意義深いと思います。

またリハビリテーションの観点から予防医学で言う一次予防・三次予防ができたことは、急性期治療が災害時には注目されやすい中で、特筆すべき成果かと考えます。

今後の課題として、平時からできることと言えば、機材の充実や、各種外国語で作成した運動指導用のパンフレットの準備などが挙げられると思います。

また、今回、症例5のように自力では診療所にたどり着けない方を、現地の人が連れてきた例がありましたが、この他にも、医療やリハビリテーションが必要でも診療所に来られない方がいたと予想されます。そういった隠れたニーズを発見するためにも、活動エリアの巡回ができればよかったと考えています。

今後、手術も行うようなチームで派遣される場合には、長期的なリハビリテーションニーズが発生することを視野にいれて、リハビリテーションが可能な転院先の確保や調査が必要になると考えます。

最後に、災害医療におけるリハビリテーションがさらに発展するために、実践のみならず、調査・研究等も行わなければいけません。そのためには、どのような調査ツール・評価ツールを用いればよいのか、今後、多くの人と議論を交わしていきたいと考えています。
以上

2020年2月26日水曜日

【JADM25発表内容】②症例報告

①はじめに、背景、からの続き

では、ここから、モザンビークでの活動について説明します。モザンビークにはイタリア、ポルトガル、アメリカ、赤十字など様々な国・機関から医療支援のチームが入っていましたが、EMTCCの方からの情報では、リハビリテーション専門職がいるチームは日本の国際緊急援助隊のみだったそうです。日本は総患者数794人を診察し、私が活動した二次隊では、リハビリテーションの対象となった患者が5人いましたので、報告します。

症例1から3は歩行補助具を作成しました。裸足で歩き足底を怪我した方、遊んでいて転倒した膝打撲の少女、サイクロンにより落ちた屋根で膝を打撲した方でした。サイクロンによりなぎ倒されたキャッサバの枝で杖を作りました。乾燥して強度のあるものを選び、適切な長さに切り、歩行訓練をしました。3例目の方は、特に荷重が困難でしたので、松葉杖を簡易的に作成し、上肢で支持できる量を増やす試みをしました。

症例4は、がれきの撤去等で右肩に疼痛を生じた方でした。個別に徒手療法を行うことは普段の臨床のようにはできませんので、愛護的なセルフエクササイズを指導し、実践してもらうことにしました。この時は、口頭での指導のみとなりました。

症例5は、被災前から歩行困難な方で、地面を這って生活していました。右股関節術後の拘縮と運動時痛があり、周囲の人に助けられながら生活していました。この日は周囲の人が「診てもらったほうがいい」とJDRの診療所まで自転車の荷台に乗せて連れてきました。

高齢であること、地面での生活では不衛生であること、地面での長坐位では体幹正中位にできないこと、さらには下肢屈曲の機会を作る目的から、段ボールを使って簡易的な椅子を作成しました。これにより感染症や誤嚥の予防、拘縮の悪化の予防を目指しました。

③成果・課題 につづく

2020年2月24日月曜日

【JADM25発表内容】①はじめに、背景

「2019年モザンビークサイクロン災害におけるJDR医療チームの活動:リハビリテーション」ということで発表させていただきます。

まず、世界保健機関WHOが定めるリハビリテーションの定義ですが、「個々の環境に応じて機能を最大化し、病気等による能力低下を改善するために、多職種チームで行う全人的アプローチ」となっています。多職種がキーワードで、理学療法士一人が担うものではなく、医師・看護師や現地の文化的背景を理解した協力者などと共に行う必要があります。

このリハビリテーションの概念は、災害があってもなくても、障害を有する人にはなくてはならない物です。その必要性は災害や紛争が起こるとより高まることが、世界的に論文等で報告されています。しかし、現状、紛争や災害が起こると、急性期治療や外科的治療が優先され、リハビリテーションは忘れられたままになっていることが多いです。

さらにこういうデータもあります。この地図は災害が多い国を赤く表示しているのですが、災害は中低所得国に集中していることがわかります。

またWHOによると、その中低所得国においてはリハビリテーションを専門にする人の数が、人口10万人に対して1人しかいないそうです。つまり、災害が多い国のリハビリテーションは発展途上である可能性が高く、災害が起こったら、急増するリハビリテーションニーズに現地の力で対応することは困難であることが予想されます。

そのような状況で、現在、国際的にどのような対応が取られているか、一部紹介します。国際リハビリテーション医学会が、災害時にリハビリテーション専門職からなるチームを結成し派遣するためのメンバーリストを作成し、さらにそのチームがWHOの緊急医療チーム(EMT)に認定されることを目指しています。また、ISPRMやHI(Humanity and Inclusion)というNGOなどから無料のオンライン教育プログラムが提供される予定にもなっています。

②症例報告へ続く

2020年2月22日土曜日

第25回日本災害医学会学術集会 in 神戸

2020年2月20〜22日、神戸で開催された第25回日本災害医学会学術集会に参加し、ポスター発表もさせて頂きました。

学術集会自体が直前まで開催されるかどうか不透明でしたが、COVID-19に関連する業務に当たられた方や発熱•咳等の症状がある方の学術集会参加をお断りする、という形での開催となりました。さらに自主的に参加自粛する方もおられた結果、多くの座長の欠席、演者の変更、演題の取り下げが起こり、ポスター掲示も隙間が目立つ状態でした。

演題取り下げが多かったため、各セッションでは発表時間や議論に比較的時間的制約がなく、どこも進行自体はスムーズだったと感じました。空いてしまった大きな講演でも、臨時講演を急遽用意するなど、運営側の努力を要所要所で感じました。


今回の学会では、昨年のモザンビークサイクロン災害における国際緊急援助隊の活動に関する演題が23ありました。成果や課題などを他の何より詳しく知ることができました。私の発表も、正式な報告書に書いた内容よりも濃いものになりました。(個人的な考察も含むため)

またリハビリテーションに関する演題は、私のものを含めて14ありました。全ての発表を聞くことはできませんでしたが、リハビリテーション専門職としての視点から、みな災害医療に一石を投じられていました。

海外からの招待講演では、英語は通訳はありませんでしたが、イタリア語は逐次通訳が入りました。演者は同時通訳なのか逐次通訳なのか事前に聞かされていなかったのか、時間を大幅にオーバーした上、途中で残念ながら終了となりました。通訳の方の日本語能力もかなり低く、それも非常に残念でした。運営スタッフ側はCOVID-19よりも想定外だったのではないでしょうか。

聞きたい演題の多くが、時間的に重なっていて、諦めたものもたくさんありますが、とても得るものが多かった3日間でした。

2020年2月1日土曜日

【紹介】Early Rehabilitation in Conflicts and Disasters

Humanity and Inclusion(以下HI)がこの度、紛争や災害時の早期リハビリテーションについて特設ページを開設するとともに、新たなハンドブックを公開しました。下記のリンクからご覧いただけます。

Early Rehabilitation in Conflicts and Disasters特設ページ
https://hi.org/en/early-rehabilitation-in-conflicts-and-disasters?fbclid=IwAR1JaHz7c8d7SbPvQVtyBdfZ9UdXETVMHarl43FgEBcPZdKVa3JYjE6hp2E

紛争や災害が起こった際には、外傷患者が急増し、急性期治療に加えて早期リハビリテーションのニーズが非常に高まります。しかし、紛争や災害を経験した国の多くのリハビリテーション専門職は、それに対応するスキルを完璧に備えているわけではありません。

HIは国際赤十字委員会ICRCや国境なき医師団フランス、CBM、Livability、世界保健機関WHOと協力して、世界初の教育パッケージを作成しました。その一つにハンドブックがあり、切断・骨折・末梢神経損傷・脊髄損傷・脳損傷・熱傷の6領域において、写真やエビデンスとともに解説されています。

ハンドブック
https://hi.org/sn_uploads/document/36199-Humanity--Inclusion-Clinical-Handbook-web_1.pdf

また、今後、ユーチューブにて教育用の動画が公開される予定です。私はチャンネル登録をし、動画が投稿されたら通知がくるように設定しました。

YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/EarlyRehabilitationinConflictsandDisasters

さらに、2020年5月にMOOC(大規模公開オンライン講義)で上記ハンドブックや動画をもとにしたEラーニングが可能となる予定だそうです。DisasterReadyのサイトで開始されます。

HIはその名称がHandicap Internationalと言っていた時代から障害者支援に力を入れていました。現在も災害・紛争時のリハビリテーションにおいてはリーダー的活動をされています。今後もHIの活動にアンテナを立てて、日本も共に進んでいけるように、私も努力します。