2016年12月13日火曜日

JDR(国際緊急援助隊)医療チーム 導入研修

 先日、JICA東京で2泊3日で行われた「第54回国際緊急援助隊(JDR)医療チーム導入研修」に参加してきました。JDRについては以前、記事(2016/3/8)で理学療法士の役割が重要視され始めている、という事を書きましたが、その点についていろいろ知ることができました。
 災害が発生すると多くの国やNGOなどが緊急医療支援を行います。その医療チームの診断レベル、治療レベル、ロジスティックレベルは非常に高いものから、如何わしいものまで様々です。特にハイチの地震の際に、その問題をWHOが取り上げ、対策に乗り出しました。それが緊急医療チーム(EMT)認証制度です。これにより、医療チームの質の保証と信頼性を確保できるようになりました。EMT認証には、type 1からtype 3とspecial cellの4種類の分類があり、今年、JDRはEMT type 3以外の全ての認証を得て、手術も可能となりました。type 2、3、special cellにおいてはリハビリテーションに関しても対応できなければならないとWHOが明記しています。
 今回の研修には4人の理学療法士が参加し、無事みな合格し、本登録の手続きに入ります。被災国からリハビリテーションに対応できるチームの要請があった場合に備えて、今後もっとJDRに登録している理学療法士が増えないといけないと感じます。マニュアルの作成や、必要機材には何があるか、何が具体的にできるか、などこれから整備していく段階です。JDR登録PTのネットワークを作る必要があると思いますので、そこから動いていこうかと考えています。
 非常に濃い3日間の導入研修の次には、もっと濃い中級研修があります。「より詳しくは中級研修で」という項目も多々あり、中級研修に参加し、学ぶことが今から楽しみです。


<参考>


・2016年11月発行のEMT Initiativeという冊子を読むことができます。
http://www.who.int/hac/techguidance/preparedness/emergency_medical_teams/en/

・EMTに関するWHOのエクストラネット
https://extranet.who.int/emt/page/home

・EMT認証基準に関する手引書(ブルーブック)
http://www.who.int/hac/global_health_cluster/fmt_guidelines_september2013.pdf?ua=1

●JDRのEMT認証について

・JICAのプレスリリース
https://www.jica.go.jp/information/jdrt/2016/ku57pq00001v8lkl.html


●EMTにおけるリハビリテーション関連職の知識・技術・資材等の必要水準(WHO草案)
MINIMUM TECHNICAL STANDARDS AND RECOMMENDATIONS FOR REHABILITATION
https://extranet.who.int/emt/sites/default/files/Minimim%20Technical%20Standards%20and%20recommendations%20for%20rehab.pdf

●WCPTがまとめた災害時のPTの役割
http://www.wcpt.org/sites/wcpt.org/files/files/resources/reports/WCPT_DisasterManagementReport_FINAL_March2016.pdf

●国際人道支援をより効果的に行うための電子教材(Eラーニング)
WHOのウェブサイトでも紹介されていた無料学習サイト。ハーバードやIMCなどが共同で作成しています。
http://www.buildingabetterresponse.org/

2016年12月2日金曜日

WCPTウェブサイトに「世界理学療法の日」活動レポート掲載

 以前、「世界理学療法の日」について記事にしました(http://lily-international-cooperation.blogspot.jp/2016/09/world-physical-therapy-day-98.html)。世界理学療法連盟(WCPT)が作ったポスターやパンフレットの日本語翻訳版が作られたことを紹介いたしましたが、その翻訳メンバーの一人が私でした。せっかく翻訳の段階から「世界理学療法の日」と関わってきたのだから、ポスターやパンフレットを活用して、日本からも「世界理学療法の日」を盛り上げようと草の根的に活動しました。
 小さなことですが、今の職場のリハ室の入り口に、ポスターを掲示し、パンフレットを設置しました。患者さんやそのご家族、そして職員なども立ち止まって見てくれていました。この取り組みをレポートにしてWCPTに提出しました。
 WCPTのウェブサイトには、毎年行われている「世界理学療法の日」の活動レポートが国ごとに掲載されています。日本からは今までレポートがなかったのですが、今年2016年の活動レポートのページに私のレポートが取り上げられました。記念すべき日本からの第一号です。
こちらをクリック!
 世界中のPTが目にすると思い、英文にはネイティブチェックを入れてもらいました。添削者は、オーストラリア留学の際にお世話になったホストファミリーのお母さんで、分かりやすい文章になりました。ウェブサイトに掲載された文章は、実際に書いたものの半分くらいに削られ、個人的な思いなどもカットされてしまいましたが、掲載して頂いただけでも満足です。
 WCPT事務局からもこの記事が掲載されたことをメールで連絡いただきました。掲載が遅くなったことを謝罪していましたが、それは今年はレポートがたくさん各国から届いたからだそうです。また、おそらく、私が書いたレポートの内容を改変して掲載していることから、他の国でも同じように、WCPTのウェブページに掲載できる形に整えてからのアップロードだから時間がかかったのだと思います。
 来年も何らかの形で「世界理学療法の日」と関わっていければと思います。

2016年11月30日水曜日

【WCPT News】完全版 2016/11/29 HIVリハビリテーションの新たな可能性

【完全版】

 HIVと共に生きる人が増え、そして長い経過をたどる疾患になったことで、理学療法士の役割がより大きくなってきています。

 トロント大学理学療法学部のステファニー・ニクソン准教授は来年のWCPTケープタウン大会でシンポジウムを行います。

 彼女からのメッセージです。「HIV患者に対する理学療法のニーズが増してきています。それはHIVが今や慢性疾患になったからです。」この事に関してはシンポジウムで取り上げられるでしょう。

 「理学療法士の多くはこの分野は自分の専門外だと思っています。能力開発がまさに必要です。リーダーシップが求められています。すでに持っている技術を使えば、HIVを持つ大人や子供にとって素晴らしい理学療法士になれるでしょう。さらなるステップを踏み出す時です。」

 さらにニクソン准教授は「免疫システムが侵されるということは、全身のいたる所が感染しやすい、ということです。たとえ神経系のリハビリテーションに携わっていてHIVとは縁がないと思っていても、HIV患者はきっとあなたのところへ訪れることがあるでしょう。他のどのような領域で働いていてもそうです。」と加えました。

 HIV患者の手助けができるのではないかと考える理学療法士は増えています。イギリスではニクソン准教授はダレン・ブラウン氏の取り組みに注目しています。ブラウン氏はHIV、腫瘍学、緩和ケアを専門に、ロンドンのチェルシー&ウエストミンスター病院で働いています。彼のコブラー・リハビリテーション教室はグループリハ的な介入を行っており、理学療法の効果や価値を、患者を全人的に捉えて長期的に経過を追うことで示してきました。

 「ダレンのプログラムでは1対1の臨床ケアが行われますが、同時に対象者を全人的に捉えます。教室ではグループで行われ、具体的な機能障害に対応するのと同時に、対象者とその周りの人とのつながりをも考えます。彼は四肢や臓器レベルで起こった問題に対処しますが、同時に機能障害がその人の活動や参加レベルでどのような影響を与えているのか、あらゆる面から対処します。」とニクソン准教授は言いました。

 東ヨーロッパやアフリカ南部ではHIVが流行していることから、研究や長期調査が行われている。ヨハネスブルクにあるウィットウォーターストランド大学のジョアンヌ・ポッタートン理学療法士は、生まれつきHIV陽性の子供に対するケアをどのように発展させていくかを示した研究に、ニクソン准教授は注目しています。

 「ジョアンヌは長年、小児のリハビリテーションに携わってきました。生まれつきHIVを持つ子供におけるHIVの影響について数多くの研究結果を報告しています。ここ10年でアフリカ南部にもHIVの治療がいきわたるようになってきたので、そのような子供たちの成長をしっかり見ることができるようになりました。以前なら不可能でした。

 医学により寿命が延びた、そしてリハビリテーションによって健康寿命が延びた、とよく言われます。文字通り、それが成し遂げられました。この疾患の理学療法の過渡期において、これまで以上に必要性が増しています。」


【用語解説】

・ステファニー・ニクソン
 カナダ人理学療法士。HIV活動家として20年間、研究を行ってきた。

・HIVとリハビリテーション
 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染しAIDSを引き起こす。AIDS関連の死亡は2004年のピーク時よりも42%減少したという。つまり慢性疾患へと移り変わってきたことで、新たに若い人が感染するケースが増えてきている。HIVによる障害は全身の各器官に及ぶため、神経系や、呼吸器系、筋骨格系などの機能障害が生じる。また参加制限や、episodic disability(予想不可能な状態の変化に伴う能力低下。つまり、良いときもあれば悪いときもある能力障害)も生じる。
 このepisodic disabilityという用語は、ニクソン女史のシンポジウムでのキーワードになっている。

・全人的
 障害だけを見るのではなく、その人全体、つまり、身体面、社会面、経済面などを総合してみること。


【使われていた英語表現】

・people living with HIV
 HIVとともに生活している人々
 日本語でも障害者→障がい者、分裂病→統合失調症、痴呆症→認知症、など、障害当事者の方への配慮が、言葉の上でもなされている。英語でも、the disabled→disabled people→people with health conditionsや、wheelchair-bound→wheelchair userなど、言葉の上での配慮がなされる。

・transition
 〈名詞〉移り変わり、過渡期
 〈動詞〉移り変わる

・compromise
 〈名詞〉和解、妥協、折衷
 〈動詞〉和解する、妥協する、(名声などを)汚す、傷つける
 *compromised:感染しやすい

・immune system
 免疫系

・be vulnerable to
 ~を受けやすい

・whole-person approach
 全人的アプローチ

・one-on-one
一対一の

・prevalence
 流行、普及

・be born HIV-positive
 生まれつきHIVが陽性な

・a good ten years
 たっぷり十年

・more now than ever
 今まで以上に


【あとがき】

 11月はWCPTニュースの配信が1件でした。油断して見落としそうでした。最後の段落のAnd yet you rarely・・・roles around HIV.が訳せませんでした。policy tableとかresearch funding tableとかは何かの比喩でしょうか? どなたか分かるかたがいらっしゃればご教授ください。
 HIV患者に対するリハビリテーション。日本はHIVに関する社会の関心が低いと指摘されています。社会の問題よりも個人の問題として捉えられている面があります。日本でも新規感染者が増加傾向にあり、今後、理学療法・リハビリテーションが必要なHIV患者が自分と所へ来るかもしれません。本文にも述べられていたように、病気のことを理解すれば、あとは理学療法士として必要な技術はすでに持ち合わせているはずです。HIVに関する社会保障などについても知っておく必要もありますかね。今回もまた興味深い記事でした。

2016年11月1日火曜日

【WCPT News】完全版 2016/10/31 生活習慣改善のための系統的アプローチをロールプレイで学ぶ

【完全版】 2016/11/2更新

 来年のWCPT南アフリカ大会では革新的なセッションが予定されています。ロールプレイで患者に、より健康的な生活を営んでもらうための促し方を学びます。

 このシンポジウムでは、臨床での理由付けスキルを、生物心理社会学的質問法を実践的に学ぶことで強化し、療法士が患者により健康的な生活習慣を送ってもらうよう促すことが可能になります。アン・ソダーランド博士はこのセッションの座長を務めます。彼女はこの心理社会学的アプローチに対する理解が得られてきてはいるが、残念ながら今のところ系統的に実践方法を紹介してきてはいない、と説明しました。

 ソダーランド博士は「今、良いことに意識され始めています。変化の始まりです。ロールプレイでは患者役・療法士役を交代でします。ツールを用いたり、知識を与えたりして出来るだけ具体的になるようにします。これが最も大切なことで、すべき事は分かっていてもどうすればいいのか分からないのです。」と述べています。

 彼女は次のように言っています。「療法士は患者の移動能力や機能障害に注目しすぎます。坐位での行動や軽い身体活動、不健康なライフスタイルが実は解決したいと思っている問題の原因になっているかもしれないのにです。」

 さらに「ほとんどの国では問題を解決するために教育があります。患者は病院に来て、背中を曲げると痛い、と訴えてきます。すると療法士はそれ来たぞと、頭の中であれこれ考え、問診し問題点を挙げていきます。問題を直接解決しようとするため、患者を全人的に分析していないのです。」

 このセッションは大盛況だったシンガポール大会で推進された、健康に基づいた実践能力とエビデンスに基づいた評価ツールを継いでいます。ケープタウン大会でのロールプレイセッションは4つあります。評価ツールの使い方の実演や、心理社会的戦略、そして会員組織がいかに健康促進を臨床や教育に取り入れていくことができるかの詳しい見立ても紹介されます。

 日々の臨床で療法士はさまざまな技術を使い行動を変えようとしています。自己管理や目標設定、フィードバックに関する技術も含まれます。しかし、ソダーランド博士は、それでも十分意識的に個々の患者の利益を最大限にすることはできていないと主張しています。

 「これまで非系統的に行われてきました。理学療法士は自分が何を行っているのか分かっていないのです。例えば、患者に運動日誌を書かせても、そこに事実が反映されていません。しかし、その事実にこそ、患者の行動を変える何かが隠されているのです。もしこれらのことを意識的に行えば、行動変化から得られるものはより多くなるでしょう。」と彼女は語りました。


【用語解説】

・アン・ソダーランド(セーデルルンド)
 スウェーデン出身。彼女が行う行動医学を理学療法に取り入れる研究は、国際的にも珍しい。

・行動医学
 行動と疾患の関係を科学し、応用実践する医療分野。医学と心理学を結びつけて行動を分析する。例えば、喫煙者は座っている時間が長い、など。

・心理社会学的アプローチ
 病気や障害などがどれだけ心理的・社会的インパクトを持っているかを考慮し、生活の活動性を低下させないよう、自信を持たせ、社会との繋がりを維持できるようにする考え方。

・エビデンス情報に基づく実践
 エビデンスに基づく医療evidence-based medicine (EBM)や実践evidence-based practice (EBP)の考え方が、特にインターネットが普及して広く取り入れられるようになった。エビデンスに基づいて最良の医療を提供するという考えだが、それを患者に押し付けてはいけない。何を選択するかは患者の自由であるが、エビデンス情報は全て提供するべきであり、そういった意味でEBPよりもevidence-informed practice (EIP)と言う方がいいかもしれない、として使われている用語。前者は科学尊重、後者は人間尊重の用語と言える。


【使われていた英語表現】

・only +動詞
 残念ながら~

・concrete
 具体的な

・zero in on ~
 ~に注目する

・sedentary behavior
 坐位での行動

・diagnose
 診断。(日本では「診断」は医師の専売特許ですが、英語では疾患や障害の原因を見つけるという意味で使われています。)

・analyse
 分析する

・integrate ~ into ~
 ~を~に統合する

・day-to-day
 日々の

・an array of ~
 ずらりと並んだ~、勢揃いの~

・self-monitoring
 自己管理

・goal-setting
 ゴール設定、目標設定

・reflect on ~
 ~に反映する

・lead to ~
 ~に繋がる


【翻訳作業について】

前記事で紹介した『英文翻訳術』で無生物主語に関して、英文を読みほどいて日本語に翻訳する、というテクニックが書かれていました。それを今回のニュースで応用すると例えば次のようになります。

・The awareness is really there now.
→They are more aware of it now.(今、より認識されるようになってきた。)

・The tendency has been for therapists to zero in on patient's difficulties with mobility.
→Therapists tend to zero in on patient's difficulties with mobility.
→Therapists tend to zero in on how difficultly patients move.(療法士は患者の移動能力に注目しがちだ。)


【あとがき】

やはり翻訳は難しいです。自分で訳した文章を自分で読み直しても、他の人が読んだらどうか、という所まであまり想像できません。用語解説を読んでいただけると内容が分かりやすいかと思います。

【書籍】英文翻訳術

英語科出身で、青年海外協力隊も経験し、外国語と密接に関わってきたこれまでの人生ですが、これからも、もっともっと外国語を仕事に生かしていきたいと思っています。
 例えば、国際学会などでの通訳です。近い将来、日本でPTの国際学会があるかもしれません。その時に、通訳者として活躍できないだろうか、と考えています。また、今やっているWCPT Newsの翻訳もそうですが、日本のPTに有益な外国語で発信されている情報の翻訳も、もっと幅広くしていきたいと思っています。
 通訳も翻訳も、高い語学力が必要なのは同じですが、テクニカルな部分は大きく異なります。通訳・翻訳の学校でも、通訳コースと翻訳コースは完全に分かれています。どちらも同時に勉強するのは難しいでしょう。通学している時間もないので独学になるのですが、まずは今、実際にやっている翻訳の勉強から始めてみようと思い、動き始めました。
 そこで手に入れたのが英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)です。いろいろなサイトで翻訳に関する書籍のおススメを探してみたのですが、いろいろな所でこの本が紹介されていましたので購入して読んでみました。多くの例文とともに、翻訳学校の生徒が書いた訳文を著者が添削するという、まるで翻訳学校に通っているかのようなリズムで進んでいきます。この本を読みながら感じたのは、翻訳の世界は、私が思っていたより深く、複雑で、繊細なものだということです。例文を実際に自分が訳してみても、著者のようなキレイな日本語になりません。読み進めていくにつれて、今、このブログで公開しているWCPT Newsがいかに素人訳か、というのが分かってきました。
 実は、この記事を書いている時点では、この本を最後まで読んでいません。じっくり問題を解きながら読み進めています。読み終わっても、何度も参考に読み返すと思います。また、この本の続編である『英語の発想』も次に購入して勉強しようと思います。WCPT Newsの翻訳のレベルが上がってきたら、お褒めのコメントを頂けると幸いです。

2016年10月23日日曜日

【WCPT News】完全版 2016/10/21 クリティカルフィジオネットワークが学術大会で新たな考えを提案

【完全版】

クリティカルフィジオネットワークのデイビッド・ニコラス氏によると、学校で習うことを超えて考えていくことに積極的でなければ、理学療法士の未来は暗いでしょう、とのことです。

シンポジウム「批判的理学療法:実践・教育・研究・施策の新たなアプローチ」において、5人の演者が、哲学・歴史・経済・人間性から来る考えが、いかに今日の理学療法を改善させるかを示します。この目的は臨床的な考えや実践のまさに本質的な点を考えることにあります。

オークランドにあるAUT大学の公衆衛生・心理社会学研究科で准教授をしているデイビッド・ニコラス氏は、「批判的に物事を考えることは、理学療法士が日々行っていることです。それは、そのように教育を受けているからではなく、そのような教育を受けていないにも関わらずです。」と述べています。

否定的な思考過程とは異なり、批判的に考えることで肯定的な討論が生まれます。専門性が過去にどのような過程で形成されてきたのかを知ることで、これからの未来、何に注目して行動すべきかが分かります。「何かを破壊したり引き離したりするために話し合いをするのではありません。脱構築の要素がありますが、批判的理学療法は‘なぜ私たちがやっていることを、他の人はしないのか’という点に触れます」とニコラス氏は言いました。

「運動について考えてみましょう。ほとんどの人は運動は理学療法の非常に核心的な部分であると言うでしょう。しかし、もし体液が浸透圧で移動したとしたら、それは細胞レベルでの運動です。移住などの社会的移動も運動です。重要な点は、なぜ運動の一側面しか見ていないのか、ということです。肘の屈曲・伸展も運動ではないでしょうか? なぜこれは選んで、他は選ばないのか?」

理学療法士がこのように幅広く考えるための鍵は、他の学校で教えられていることを学ぶことです。クリティカルフィジオネットワークには、他の分野でさらに勉強し、古典的生物医学的訓練を補完した療法士によって構成されています。2014年に会員の期待とともに立ち上げられたこのネットワークは、1年の内に300人の会員を得て、今では29カ国から500人の会員がいます。

ニコラス氏によると、「批判的理学療法の基本前提の一つに、一定期間、理学療法から離れて、外の世界に出ろ、というものがあります。ネットワークの会員のほとんどが、ある時点で理学療法を離れて、人間性を学んだり、歴史を学んだり、哲学を学んだり、政治を学んだりしています。そして、それらの知識を持って、理学療法の世界に戻ってきました。まるで旅行に出掛けていたみたいにです。」

このセッションでは、南アフリカ共和国の言語聴覚士マーシェン・ピレイ氏や、トロント大学のバーバラ・ギブソン女氏やクイーンズランド大学博士課程の療法士ジェニー・セッチェル女氏も話をします。

ギブソン女氏の重点研究テーマは子供のリハビリテーションです。彼女は、「正常」とは一体何なのかを障害という枠組みの中で大会参加者に問いただします。大会参加者はきっと標準的な移動能力は自分に必要と考えているでしょうが、その標準が、すべての子供たちにとって適切な標準ではないかもしれません。

ニコラス氏曰く、「彼女は、理想的な直立二足歩行における‘正常歩行’をどのように捉えているか、理学療法士に聞きます。正常という考え方を止めて、あらゆる方法による移動でも、その喜びをもとに考えることができれば、子供たちへのリハビリテーションの方法は変わるでしょう。」

セッチェル女氏は、理想的な体形に関する考え方や体重にまつわる汚名についてしばらく研究していました。体形に対する人々の考え方がどうすればよい方向へ変化するのかを問うてきました。理学療法士は正常な体形はこうであるべき、という考えに基づき、患者に不注意にも汚名を着せていることがあります。

ニコラス氏が言うには、「学校で教える内容により、体形がより理想化され、その理想とされている体形である必要のない人が汚名を着せられている状態であることを彼女は述べている。それにより療法士と患者の間に距離ができてしまいます。なぜなら評価されているかのようだからです。これは治療を行うに当たって良くないことだと彼女は訴えています。」

専門性の将来を見てみると、理学療法に取り入れるべき科学技術や経済が発展してきています。例えば、自動運転機能を備えた車が増えれば、世界中で交通事故による脳損傷の数が減るでしょう。遺伝子操作の発展は先天性疾患を減らしたり、義肢の進歩は理学療法士のリハビリテーションにおける役割を変化させるかもしれません。

ネットワークの前向き批判的精神が続けながらも、理学療法が変化を続ける世界と足並みを合わせていけるだろうとニコラス氏は肯定的に考えています。

「理学療法士ほどヘルスケアにおける経済変化に適応できるものはいません。理学療法士はまさに適材であるのに、問題はそのことを理学療法士自身が分かっていないことです」とニコラス氏は語った。


【用語】

・クリティカルフィジオネットワーク(CPN)
http://criticalphysio.net/ 会員登録は無料です。登録すると参考資料などにもアクセスできるようです。

・デイビッド・ニコラス
ニュージーランド出身。ケープランド大会のシンポジウムで座長および演者を務める。前述のCPNの創設者。イギリスとニュージーランドで20年以上教壇に立っている。

・脱構築
古いものを壊して、新しいものを作り出すこと。哲学用語。


【使われていた英語表現】

・be in danger
危機にある

・spectrum
範囲

・panel
発表者、講演者

・interrogate
調べる、尋問する、情報を得る

・notion
観念、考え、意見、意向

・at a cellular level
細胞レベルで

・from a critical point of view
批判的観点から

・challenge
~に対してその妥当性を問題にする、異議を唱える

・stigma around~
~に関する汚名、不名誉、恥辱

・inadvertently
軽率にも、不注意にも

・keep pace with~
~とペースを揃える


【あとがき】

 今回は、文章量が多かったのと週末だったこともあり、要約版は書けませんでした。「ニュースが公開されたのに、翻訳はまだかー」とお待ちになられていた方、大変お待たせしました。(って、そんな人いないでしょうが。)
 CPNに登録してみようかと思いますので、登録して何か興味深いことがあれば、このブログで共有したいと思います。それにしても面白いですね。一時的に理学療法士を離れ、他の世界を学んできた人が集まっているなんて。私は、理学療法士しながら、ブログやニュース翻訳をしていますが、理学療法士を離れるということはしたことがありません。仕事や生活のことを考えると、なかなか理学療法士を離れる、というのは難しいですから、同時進行で何か理学療法士とは違うことをする、ということになります。

2016年10月13日木曜日

【WCPT News】完全版 2016/10/12 ケープタウン大会 無料招待者 抽選で決まる

(2016/10/13)完全版に更新しました。

【完全版】

 ノルウェーのマリット・クリスティアンセンさんと、シンガポールのマルコス・チョンさんが、来年の南アフリカでの学会の参加費が無料になる権利を得ました。
 ノルウェーのクリスティアンセンさんと、クイーンズランド大学理学療法学科2年生のチョンさんは参加登録者から無作為に選ばれ、支払われた参加費がこれから返還されます。
 チョンさんは「本当に嬉しいです。払った参加費が還ってくるなんて非常に幸運だと思います。目を開かされるような経験と、世界のトップ理学療法士たちと共に過ごす時間を楽しみにしています。」と述べました。
 今日の理学療法業界が直面している最も熱いトピックスについてシンポジウムでお話いただく国際的な講演者がすでに100人以上決まっています。初めての学術大会参加となるチョンさんは、理学療法が世の中の役にどのように立つのかを学ぶことを楽しみにしています。また、これから待ち受ける課題にどのように専門性が生かせるかを知るため、同志との出会いにも期待をしています。
 彼はこうも言っています。「未来の理学療法士として私たちが抱える課題やチャンスに私は最もわくわくしています。個人においても団体においても学術集会や会議は発展に大きく寄与します。理学療法に関して最も情熱がある聡明な人たちと学んだり、ネットワークを形成したりすることは、間違いなく自身を駆り立てる経験となるでしょう。」
 大会プログラムはディーナ・ブルック教授と国際科学委員会の指導のもと拡がり続けています。臨床家、管理者、研究者、教育者、学生の全ての者がこの学術大会に関わりが持てるよう、彼らの幅広い経験が生かされるでしょう。
 当選者の発表は、WCPTシンガポール大会が賞を受けたすぐ後にありました。参加登録は受付中です。抄録の提出期限は早くも10月31日に迫っています。


【使われていた英語表現】

・at random
無作為に

・draw
抽選、くじ引き

・under the guidance of
~の指導のもと

・be relevant to
~と関係がある


【あとがき】

 抽選で参加費無料!なんて制度があるんですね。まったく知りませんでした。
 参加費は会員で早割期間に申し込めば、3日間で700USドルです。7万円ほどです。当日申込になると1080USドルなので10万円以上ですね。そもそも当日、そんな大金を持って南アフリカを歩けません。治安のことを考えると参加する人は絶対に事前に支払いをしておくべきです。
 あと、内容と関係ないですが、WCPT Newsの更新頻度が高いですね。なかなか慌ただしいです。

2016年10月11日火曜日

【WCPT News】完全版 2016/10/10 会長日記 ケープタウンWCPT学術大会は喜びと学びの絶好の機会

(2016/10/12)完全版に更新しました。

【完全版】

エマ・ストークス WCPT会長

 国際学会は人生を変えることがあります。世界の理学療法士たちがWCPTケープタウン大会の準備を進めているのを見ながら、エマ・ストークスは今までの自身の道のりを振り返ります。
 私は、これまでの約20年間、国際的に学んできた過程で出会った理学療法士たちのお陰で今の自分があると思っています。そのような恩恵に感謝しなければ今日のような日はありません。
 私が初めてWCPT学術大会に参加したのは1999年の横浜大会でした。世界中の理学療法士が、天皇陛下ご臨席の開会式の会場にいっぱいに集まっている奇跡を今も鮮明に覚えています。この大会ほど私の専門性発展に影響を与えたものはありません。
 世界の理学療法士たちと過ごした3日間は楽しかったです。シンガポール大会の時のように、横浜は興奮やつながり、多様性に満ちていました。思っている以上に大きなコミュニティの一員なのだと気づくことでしょう。
 学術大会から戻ると、自分がいた世界がいかに小さかったかという思いから、もといた(二次元的に感じる)世界に戻って再び慣れるまでに時間が幾分か必要です。しかし同時に、たくさんの経験が私を支えてくれるようになります。これは他では得難いものです。是非、皆さんにも経験してもらいたいし、多くの理学療法士が再び学術大会に参加する理由でもあります。
 2017年7月、私たちは再びケープタウンで開催されるWCPT学術大会で集まります。旧友と再会したり、新たな友をつくる機会になります。また、学んだり、最新の知見を共有したり、話し合ったりして、私たちの専門性の方向づけをする機会にもなります。若い研究者は自身の発見を発表し、私のように幸運なら、今のリーダー達によって次のステップへ導かれていくことでしょう。
 私たちは学術大会前および後のコース、シンポジウム、討論会などにも参加するでしょう。それらは相乗効果により、より良いものが生まれます。ネットワークが形成され、アイディアは成熟します。シンガポールで早朝のソーシャルメディア部門で起こったハッシュタグ#globalptに関する研究はその例のです。
 理学療法士の時間や資金はいろいろな物に使われるため、次の学術大会に参加できない者もいることは承知しています。ケープタウンへの旅行手配特設サイトは現在利用可能です。私たちは参加費が負担にならないようにできる限りの努力をしています。ケープタウン大会参加は専門性発展のための素晴らしい投資であり、帰国後もこの経験は生かされ続けるでしょう。
 伝統的なアフリカ哲学に「他の誰か・何かがあるお陰で私がある」という言葉があります。これは私たちの周りの世界とのつながりの中に自分自身を見いだすことを教えてくれています。私たちの世界はかつてない挑戦をしようとしています。一致団結すれば私たちはより強く、より良くなります。
 来年の学術大会は今までのものとは違います。アフリカ地域での初めての開催ということと、4年に1回から2年に1回の開催になった初めての年です。皆で集まって、理学療法の価値を世に広げる時です。私たちの多様性をアピールしたり、課題を前により成長したり、笑ったり学んだりするチャンスです。


【用語】

・エマ・ストークス会長
アイルランド出身。2015年のシンガポール大会で副会長から会長へ指名された。
6年間、臨床で働き、1996年から教鞭を執っている。大学の准教授で、博士課程の学生の指導まで行っている。

・WCPT横浜大会
1999年、初めて日本で開催されたWCPT学術大会。開会式には天皇陛下がご臨席なされた。日本で開発されたAKA博田法もこの横浜大会で紹介され、今も外国から問い合わせがあると言う。次のケープタウン大会から2年毎の開催ペースになるので、私が現役の間に、再び日本で行われることもあるかもしれない。


【使われていた英語表現】

・reflect on
思い起こす

・be grateful for
~に感謝する

・be alive in my memory
記憶に鮮明に残っている

・be rich with
~に満ちている

・reorient myself to
~に再び慣れる

・be buoyed by
~に支えられている

・be guided in their next steps
次のステップへ導かれる

・symposia
symposiumの複数形。シンポジウム。

・there are many calls on therapist's time
様々なことに、療法士の時間が割かれる

・make every efforts to
~のためにできる限りの努力をする

・I am what I am because of what we all are.
南アフリカ共和国で話されるズールー語のubuntuの英語訳。他の誰かや何かがあるお陰で今の自分があるという意味。美しすぎる言葉で翻訳できない、とも言われている。他にI am because of you. People are not people without other people. などと訳していることもある。

・in relation to
~に関係して

・unprecedented challenges
前例のない挑戦

・celebrate
祝う。(式典などを)行う、褒め称えて世に知らせる。


【あとがき】
 さすがにアフリカは遠いですが、会長のこういうメッセージを読むとWCPT学術大会に参加したくなります。前回、アジアで開催されたシンガポール大会を逃したのは惜しかったかなと思います。
 ケープタウンの次は2019年、スイスのジュネーブ大会です。スイスもきっと行けないでしょう。私のWCPT学術大会初参加はいつになることやら。それまで英語力を鍛えておくこととします。

2016年10月7日金曜日

【WCPT News】完全版 2016/10/6 WCPT学術大会が国際的な賞を受賞

(2016/10/8)完全版に書き換えました。

【完全版】

 WCPT学術大会が、2016年シンガポール観光アワードの団体会議主催者部門で優秀賞に選ばれました。
 2015年5月に行われた学術大会には4100人の参加者が、170の講習や1800の演題、100以上の出展があった展示会のためにシンガポールを訪れた。賞は非常に優れた業績を称え、シンガポールのリッツ・カールトン・ホテルでの授賞式で授与された。
 WCPTに代わって賞を受け取ったシンガポール理学療法協会のディネッシュ・ベルマ氏とシン・イ・リー氏は、他の最終選考に残った3団体の業績を称賛しました。また、学術大会を成功に導いた全ての方に感謝しました。
 「私たちは数ある候補の中ら自分たちの職種が選ばれたことを光栄に思います。全てのスタッフや参加者のお陰です。無条件で行ってきた大変な仕事に報いる最高の報酬です。」とベルマ氏は語りました。
 WCPTの政策・学術大会担当部長、トレイシー・ビューリー氏は審査の時に、開催国やサービス提供者が作った幅の広いチームが、大会成功の裏にある重要な役割であることを強調しました。
 WCPT学術大会は、ヨーロッパ腫瘍医学会、国際肝膵胆協会、シーボ(世界大手の金融サービスイベント)といった競合者から優秀賞を勝ち取りました。
 WCPTのジョナサン・クルーガーCEOは受賞を歓迎し、世界の理学療法業界において革新的な国際イベントであるという地位を得たと述べています。
 「WCPTは受賞を光栄に思います。世界中の理学療法士にとってWCPT学術大会が最も良い目標であると認識されました。我々は2017年の学術大会で再び世界の理学療法士がケープタウンに集まれる事を楽しみにしています。我々はなお一層、よい経験をして頂けるよう努力をいたします。」
 次期WCPT学術大会の参加申込が現在行われています。11月30日までは早割が適応されます。すでに100人以上の国際的な講演者の登壇が決定しているこの学術大会は、2017年7月にケープタウンで行われます。


【用語】

・シンガポール観光アワード
シンガポールの観光産業における秀でたものを表彰するもの。5部門30項目で賞が与えられる。

・シンガポール理学療法協会
前会長がベルマ氏、現会長がリー女氏である。今回の受賞については、まだ協会のホームページには載せられていない。

・WCPT学術大会2015
シンガポールで行われたこの国際学会の参加者の13%は日本からであり、シンガポール(12%)を上回っていた。


【使われていた英語表現】

・exceptional achievements in ~
~における非常に優れた業績

・delegate
代表、代理人。ここでは学会参加者のこと。

・on behalf of ~
~の代わりに、~を代表して、~のために

・strive to ~
(不定詞を続けて)~しようと努力する

・an early bird discount
早期申込における割引


【あとがき】

 私も実はこの学会に参加したかったんです。シンガポールは日本から非常に近く、行けばきっと非常にいい経験ができるだろうと思っていました。しかし、参加費が非常に高額で、尻込みしてしまったのは事実です。
 しかし、4100人の参加者の13%が日本人、ということは計算すると530人ほどが日本から参加したということですね。ぜひ、参加した方からの報告を聞いてみたいです。
 今回の翻訳は、部門や部署の名前を日本語にするのが難しかったです。その辺りは適訳ではないかもしれませんのでご了承ください。
 あと、タイトルがmajor international awardとすごく国際的な賞のように書いていますが、実際はシンガポールのローカルな賞の国際部門といったレベルだと思っています。


(原文)
http://www.wcpt.org/news/congress-wins-major-award-Oct16

2016年9月22日木曜日

【WCPT News】完全版 2016/9/21 世界保健機関 ヨーロッパの疾病対策において筋骨格系の重要性を認識

 今月からWCPTのニュースを試験的に翻訳して配信しています。まずは、ニュースが公開されたらできるだけ早く要約版を公開し、その後、完全版をきちんと配信したいと思っています。(要約版はスピード重視で、完全版は正確性重視で、できるだけ補足も付けたいと思っています。) 新しい試みなので、皆さまのご意見もよろしくお願いいたします。

(2016/9/27) 完全版に書き換えました。要約版はそれに伴い削除しております。


【完全版】

 ヨーロッパにおいて、非伝染性疾患(NCD)予防のため、筋骨格系の健康を促進することが重要だと強調した世界保健機関(WHO)の新たな行動計画が9月15日に承認された。
 この計画では、ヨーロッパ地域における障害の最大の原因が筋骨格系の健康状態であるとの認識を示し、それが就業不能や高齢者の自立度の低下を招くとした。
 世界理学療法連盟(WCPT)のCEOジョナサン・クルーガー氏は「この提言を歓迎する。WHOが初めて、筋骨格系疾患由来の障害を減らす取り組みを各国が行う必要があると認識した。筋骨格系の健康は身体面でも健康を左右する。身体的に健康であることは、最大限の能力を使って生活するための前提条件である。」と述べた。
 この計画では教育戦略や産業衛生計画との統合を通して、全ての世代の人々に筋骨格系の健康を促進することを勧めている。また、在宅ケアを受けている人も含む高齢者の、全身の筋骨格系運動プログラムも、早期介入や自己管理とともに重要だと強調している。
 クルーガー氏は、「理学療法士は早期介入やリハビリテーションサービス提供において重要な役割を持っている。世界の健康保健制度において、理学療法士は移動能力の改善や健康促進における独自の地位を得ている。各国の理学療法機関は筋骨格系の運動促進に向けた国家計画の策定を支援する準備ができている。」と語った。
 スイス理学療法協会の会長、ローランド・ペレックス氏は、コペンハーゲンで行われたWHO地域委員会において、この計画を歓迎した。「理学療法士は身体活動をより促し、どんな障害にも合わせて運動を指導できる。多くの理学療法士は職域が拡大し、健康保健サービスの財源を節約しなければならない」と述べた。
 多くの国では、理学療法に対するダイレクトアクセスが認められており必要な時に必要なサービスを受けることができるので、早期介入の機会や機能障害のリスクを最小限に抑える機会がある。少なくとも40のWCPTメンバー国でダイレクトアクセスとセルフリファーラルが認められている。
 WHOと国際的および地域的に連携を取っている筋骨格系の健康のための国際同盟は、この計画をヨーロッパ各国に採用するよう呼び掛けを行った。また筋骨格系の健康の重要性が世界的に認識されていたと言うことも合わせて伝えた。


【用語】

・非伝染性疾患
生活習慣の改善により予防可能な疾患の総称で、日本でいう生活習慣病に相当。食事、運動、喫煙、飲酒などを原因とする高血圧や糖尿病、心疾患、脳卒中、COPD、悪性新生物(がん)など。
2008年にWHOが非伝染性疾患に関する報告書を作成し、多くは予防可能だと記載された。また、低所得層の国で多いことが分かり、国際協力の分野でも注目された。

・ダイレクトアクセス
ダイレクトもアクセスも日本語として定着している外来語ですが、アクセスについてもう少し詳しく見てみましょう。オックスフォード英英辞典ではaccessは「何かを得る権利・機会」と用法2で書いています。原文のdirect access to physical therapyは「理学療法を直接受ける権利」となり、日本のようにPTと患者の間に、医師の診察や処方を介さない、ということです。すなわち開業権と繋がってはくるのですが、ダイレクトアクセス=開業権ではないので訳すときは注意が必要だと思います。

・セルフリファーラル
患者自身が問題を感じて、自ら相談に行くこと。日本では、患者が直接、理学療法士に何かを相談に来ることはないですが、ダイレクトアクセスが認められている国・地域では、このセルフリファーラルで患者が理学療法士の所へ来ることができます。

・筋骨格系の健康のための国際同盟
運動器の10年Bone and Joint Decadeとして60ヶ国以上がネットワークを組んでいます。その中の組織で、筋骨格系に関する内容を取り扱っています。


【使われていた英語表現】

・The plan acknowledges that~
その計画は~だと言うことを事実だと認めている

・the burden arising from~
~に起因する障害(重荷・負担)

・Good physical health is a prerequisite to~
身体的に健康であることは、~の前提条件である

・residential care
在宅ケア

・early intervention
早期介入

・Physical therapists are crucial in~
理学療法士は~においてきわめて重要である

・minimanize the risk of functional impairment
機能障害のリスクを最小限にする

・embrace the plan
計画を採用する


【後書き】

 要約版を即座に公開しましたが、翻訳としては雑なものでした。コペンハーゲンをスイスにある、と書いたり等、いろいろ気がついた方もいらっしゃると思います。この翻訳配信は世界の理学療法事情を日本のPTさんがもっと手軽に手に入れられるようにと思い開始したものですが、同時に私自身の翻訳トレーニングという一面もあるということでご容赦頂きたいと思います。
 完全版では、日本ではあまり馴染みのない用語の解説や、原文の中からよく使えそうな単語やフレーズの紹介なども含めました。世界の理学療法事情を知るだけでなく英語の勉強の助けにもなれば幸いです。

【参考】

2016年9月8日木曜日

World Physical Therapy Day ( 9月8日)

毎年、9月8日はWorld Physical Therapy Day(世界理学療法の日)です。今年は「健康寿命を延ばそう」というテーマで取り組みが行われています。これは一般の人に対するキャンペーンで、理学療法が人々の生活をどんなに良いものにしてくれるかをポスターやパンフレットなどでお知らせします。
 ちなみに去年は「能力を最大限に使う Fulfilling Potential」、一昨年は「社会参加のための身体作り Fit to Take Part」という内容でしたが、日本ではあまりこう言った活動の認知度がPTの中でも低いようです。しかし今年は日本理学療法士協会の国際部が、ポスターやパンフレットの翻訳を行い、世界理学療法連盟( WCPT) のウェブページにJapanese versionとして正式に公開されましたhttp://www.wcpt.org/wptday-posters-japanese。これをきっかけにWCPTの活動にも興味を持ち、アンテナを張れるように多くの人がなればいいと思います。
 ところで、今年のテーマは英語で、Add Life to Yearsとなっており単語自体は簡単ですが、英語学習者でも訳しにくい表現かもしれません。もともとAdd Years to Lifeという表現があり、これは「長く生きる」という事を言っています。しかし、現代社会において世界的に平均寿命が延びてきた今、単に長生きを目指すのではなく、健康的に過ごす時間を増やそうと言う呼び掛けをするため、YearsとLifeを逆にしたスローガンが考案されたと私は考えています。
 WCPTの全てのニュースが日本語に翻訳されれば、それほど楽な事はありません。日本の医療状勢、経済状勢などにアンテナを張っておくだけでも大変で、日々の業務に追われているとあっという間に情報遅れになってしまいます。それに加えて英語で発信される世界の理学療法の流れにも注目しようとなると、めまいが起こってしまいます。誰かがWCPTの主要なニュースだけでも翻訳して配信してくれればいいのになと思います。私がやるか? 無理かなぁ。けど需要があるならやろうかな。試しに9月のニュースから。

2016年6月6日月曜日

熊本地震 海外NGOでのOTの活動

緊急援助においては、多くの日本の団体が様々な形で援助を行っていますが、それに加えて外国の団体も熊本に来て援助をして頂いています。今回は、海外医療系NGOに所属し活動した作業療法士(OT)の体験談を紹介します。このOTさんは、私の友人で、私のよき理解者でもあります。
今回所属した団体はアメリカのNGOで、医療系の人道支援・被災地復興支援を世界各地で行っています。この団体からプログラムオフィサー、公衆衛生の専門家、心理士、ITの専門家が来日しており、その他は現地雇用をしています。現地雇用がこの団体のチームの8割ほどを占めます。海外NGO故に通訳も現地雇用しています。
事務チーム、ロジスティックス・調達チーム、医療チームを作って活動しています。またアセスメントチームを多職種で作り、支援が必要な避難所を見つけます。実際、主に支援に入った避難所は2ヶ所だった、とのことです。
OTとしてアセスメントチームに入り、避難所の評価・ニーズ発掘に関わったり、各種情報共有会議に出たり、本業である作業療法を行ったり、活動範囲は多岐に渡りました。どの活動も重要なものではありましたが、やはりOTとして専門を生かした活動ができたときには、達成感や充実感を得ることができた、とのことです。
実際に行った作業療法の例の一つは、集団体操です。機能レベルを以前より上げるというのは、災害医療においては(できるに越したことはないですが)優先順位は低く、この集団体操では被災前の活動レベルに戻す、ということを目標にしていました。避難所の限られたスペースで、不特定多数の方が生活している場所で、活発に動き回る、ということはなかなかできません。散歩や軽い運動などを自ら行うように促しても、「こんなにみんなが大変な時に、散歩なんてできない。」「周りの目線が気になる」などの理由で、活動量はどうしても減少してしまいます。そのため、専門職が集団体操の指揮をとり、それがきっかけ・理由となって、運動に参加してもらうように誘導しました。
このときだけは心配ごとを忘れてもらおう、と体操だけでなく、レクリエーションも実施しました。レクリエーションを通じて、避難者同士の交流もなされ、避難所内での人間関係の改善にも繋がりました。このような活動は、1回完結ではなく、繰り返し行うことで、前述のような良い結果をより生み出せる、とのことでした。
また、この団体の活動の特徴として、現地雇用メンバーに、サイコロジカルファーストエイド(Psychological First Aid、以下PFA)を推奨していました。WHOなどが作成したPFAのガイドラインには「被災者の尊厳、文化、能力を尊重したやり方で支援するための枠組みを示す・・・どのような言葉をかけ、どのような行動を取れば、最も支えとなるのかを考えるための資料」と書かれています。(WHOのガイドラインはこちらから各国言語でダウンロードできます→http://www.who.int/mental_health/publications/guide_field_workers/en/) アメリカのNational Center for PTSDなどが作成したPFAのガイドラインもあり、この日本語版が兵庫県こころのケアセンターのホームページからダウンロードできます。(http://www.j-hits.org/psychological/)
この熊本での活動で感じたのは、情報収集の大切さ、情報共有の難しさ、チームとしての協業性の重要性、などだったそうです。また現地で支援をしている地元の方も、支援を受けている人と同様に被災者であることも忘れてはいけない、と強く感じた場面もあったそうです。
以上のように、外国の団体ではありますが、現地雇用の人材を生かし、熊本で多くの支援をしていただきました。このような外国のNGOが日本に来る事ができるのは、そのNGOの活動を支える支援者がいるからであり、その遥か遠くの見えない支援者様たちにも感謝したいと思います。

2016年5月8日日曜日

JRAT大阪 熊本地震派遣 報告会

昨日、大阪府理学療法士会が、現在も派遣中のJRAT大阪の活動についての報告会を開催しました。そもそもJRATとは、どういうものなのか、私自身、よく分かっていなかったのですが、報告会に参加し、様々な情報を得ることができました。
 JRATの始まりは2011/3/11の東日本大震災でした。発災後2ヶ月が経とうとする5/5に10団体が結束して作ったリハチームが現地の避難所に入りました。しかし、入ることができたのはたった3つの避難所でした。それは、あまりに派遣した時期が遅かったからです。発災後、すぐに行かなければ、ボランティアは必要なところに配備され、後から来た人には「もう間に合っています」ということになります。その教訓があり12団体が協力し、JRAT(大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会)を作り、平時からの備え(研修・啓発等)を行っています。
 財源は豊富にあるわけではなく、今回の熊本地震における派遣は、JMAT(医師会の災害医療チーム)の傘下に入り、災害救助法がカバーできる範囲での費用弁済される予定だそうです。しかし活動全てが自腹になってしまう可能性もある、とのことでした。
 JRATが全国レベルでの災害リハビリコーディネーター養成研修会を実施し、その後、各都道府県で地域JRATが発足しています。JRAT大阪は比較的活発に早い段階から活動をしているという話でした。
 今回の熊本地震の発災翌日4/15には東京にJRAT災害対策本部が立ち上がり、熊本にも現地のJRAT災害対策本部が立ち上がりました。発災後9日目には医師を含むチームが現地に入り、活動を開始しました。東日本大震災の時と比較すると初動がかなり早くなっています。
 リハ関係職種が災害医療チームに入る利点として、複数の報告者の発表を聞いてまとめてみると、次のようになります。
  1、リハトリアージができる
  2、廃用予防、生活不活発病の予防ができる
  3、ICFを用いた考え方ができる
  4、ADLに関しての知識が豊富
  5、環境設定が得意
  6、他職種との連携が得意
 リハトリアージとはリハ的な関わりの必要度に応じて被災者を選別することで、JRATのマニュアル(無料ダウンロード可→http://www.jrat.jp/images/PDF/manual_dsrt.pdf)にも記載されています。また被災者の疾患や生活環境によっては廃用症候群に至る可能性もあり、そうならないためのICFの枠組みでの思考が重要です。特に環境因子は大きく影響を与え、環境設定を適切にすることで廃用症候群を防げる、ということも分かりました。(前回の記事に書いた、自宅よりも動く環境になり被災前よりも元気になった高齢者の例)
 また、今回JRATは私が活動したAMDAが入っている避難所には介入をしなかった、とのことでした。AMDA医療チームにPTが入る前にJRATが訪問しリハ的な介入が必要そうな人の選別がされ、AMDAにPTが入ってから、そのPTに引き継がれたそうです。AMDAのPTは1か所で活動しており、他の避難所の状況はあまり知らなかったのですが、いくつかの避難所を回っているJRATから見ると、AMDAが入っている避難所は、衛生面・環境面・支援体制等が非常に整備され、「さすがプロの医療支援団体だなぁ」という印象だったそうです。
 今回の報告会で、AMDAで活動した自分自身の経験と、JRATから見た視点が融合できて、非常に勉強になりました。
 具体的な活動についても報告がありましたが、詳しく書くときりがないので、また別の機会に紹介できたらさせていただきます。

2016年5月3日火曜日

熊本地震 緊急医療援助 理学療法士編

 4月14日から続いている熊本地震により、被災された方々にお見舞い申し上げると共に、犠牲になられた方々およびその家族の方々にお悔やみ申し上げます。一日も早い復興を願い支援させて頂きます。
 私は4月28日から5月2日までの5日間、熊本の益城町にある避難所で医療支援をしているAMDAのボランティアスタッフの一員として活動させて頂きました。AMDAの医療チームは医師・看護師・薬剤師・理学療法士・鍼灸師・介護福祉士・調整員等で構成されています。
 前任者として2名の理学療法士が避難所で活動しており、私がその活動を引き継いだ形です。前任者は避難者の中からADLの低い方、低下するだろうと予想される方に対して離床を促したり、離床しやすい環境の整備をして下さいました。生活環境の改善として、ベッドが必要な方に医療用ベッドや災害支援用の段ボールベッドを設置しました。数に限りがあるベッドなので、優先度の高い方にできるだけ使って頂けるように、医師と相談しながら、また周りの避難者に了解を取りながら、トラブルにならないよう行われました。
段ボールベッド
慎重に行う必要のある事として、特別な・数に限りのある物資を渡す時に「どうしてあの人にだけ?」と思われないようにする事です。不満を口に出されない方もいる事も念頭に置いておきます。
 同様に、理学療法的な介入のし過ぎには気をつけないといけませんでした。「なぜあの人だけリハビリの先生が毎日来るの?」となってはいけません。理学療法士のボランティアが一人や二人では避難所の数百人をみることは到底できません。また、地元の医療に徐々にバトンタッチしていく必要があるため、地元で今後受けられる理学療法以上の理学療法も行うべきではないでしょう。
 私が行った活動は、段ボールベッドの作成や、前任者が行った環境設定のフォローアップ、共有スペース(出入り口や通路など)に潜む転倒の危険のある場所の修繕、要介護者の離床の促しやレクリエーション、震災により骨折した避難者の動作指導などです。
段差解消
 他の団体から歯科医や栄養士、福祉用具などの支援も頂き、また近隣の老人福祉施設で要介護者の入浴もして頂きました。
栄養師ボランティアとAMDA医師・PTによる聞き取り
(避難者様の写真使用許可あり)
実際、避難所で初めて災害ボランティアとして活動して気づかされた事があります。活動前は避難者の廃用症候群・生活不活発病を防ぐことが必要だと思っていました。しかし、避難所では、排泄は少し離れた仮設トイレまで行かないといけない、そのために普段は使っていなかった階段を使わないといけない、など、自宅にいるときよりも活動量が増える例が多くありました。「家じゃベッドからほとんど動かなかったけど、ここ(避難所)じゃ、たくさん動くから、ばぁさん元気になった」なんて声も聞かれました。廃用症候群や生活不活発病などと言うものは、避難所にいる時よりも、今後、仮設住宅に入ってからの問題なのかな、と感じました。むしろ今は若い人も高齢者もオーバーワーク気味なのだと思います。
 疲労や脱水などによる体調不良の方や、腰痛・肩こり・頭痛などの症状の方が多く、鍼灸師の方がかなり忙しく治療をされていました。
医療チーム回診
今回の活動は、JOCVリハビリテーションネットワークのメーリングリストに流れたAMDAからの理学療法士募集を見て、応募したことから始まりました。このような災害時緊急医療援助をしている団体はたくさんあると思いますが、私はあまりまだこの分野は詳しくなく、今後さらなる情報収集をしようと思っています。
 私の活動はたった5日間で終わり、支援できたことと言えば、ほんの少しのことだと思います。しかし、小さなことの積み重ねで前に進んでいくものだと思っています。チームの医師が「ホームランは打たなくてよい、送りバンドをするつもり」で活動しようとおっしゃっていました。支援は永遠に続くのではなく、減っていくもの・終わるものであり、地元の力で復興できるようになるまでの繋ぎであることを学びました。なので、私ができたことは少しのことでしたが、被災者の方の喜ぶ姿を見ることができたし、役に立てたのではないかと思います。そして、私自身も医療や福祉の原点を見たようで、非常に勉強させていただきました。
 この活動は、被災地の避難所を借りて、させて頂いた活動であり、決してやってあげた、という活動ではありません。被災者の方々に感謝させていただきます。

<リンク>
AMDA http://amda.or.jp/
 理学療法士に関するAMDA記事
  速報9 http://amda.or.jp/articlelist/?work_id=4983
  速報10 http://amda.or.jp/articlelist/?work_id=4989
  速報11 http://amda.or.jp/articlelist/?work_id=4993
  速報12 http://amda.or.jp/articlelist/?work_id=4995
  速報14 http://amda.or.jp/articlelist/?work_id=5012
 FACEBOOKページ
JRAT 大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会

2016年4月4日月曜日

フランス語

 義務教育で第二言語として英語を私たちは学習します。そして、第三言語(第二外国語)は青年海外協力隊で派遣される国の言語だとずっと思っていました。(大学に行った人は教養としての第二外国語は必修なんで勉強しているんですよね?) 私はドミニカ共和国でスペイン語を学ぶ事ができたので、次は独学で新たな外国語を習得したいと考えています。
 次に学びたいと思っていた言語は、フランス語か中国語でした。フランス語は、もともとアフリカで国際協力をしたいと思っていた事が影響しています。中国語は、日本でも街を歩いているとよく聞く言語であるし、ドミニカ共和国でもよく聞く言語だったという事が影響しています。
 そこで、フランス語と中国語のどちらをやろうか決めるため、まず一週間、いろいろな本やウェブサイト、体験レッスンなどを用いて中国語をやってみました。すると、なかなか面白いな、と最初は思いましたが、学習欲はあまり沸いてきませんでした。
 次にフランス語の学習を、同様に本やウェブサイト、体験レッスンなどで始めました。こちらは、言っている事と書いている事が違いすぎて、よそ者を寄せ付けない雰囲気がありました。しかし、フランス語の方は、どうしてだろう? これはどう発音するのだろう? これはどう表現するのだろう? など、次々に知りたいことが出てきて、いつの間にか、今月からのラジオ講座「まいにちフランス語」のテキストの定期購読を申し込んでいました。
 結局、言語の学習は、その言語を使って話したい人がいるかどうか、だと分かったような気がしました。中国語話者より、フランス語話者=アフリカの人と国際協力の分野で関わりたいという気持ちが、今回、フランス語に私を導いたのだと思います。
 また、先月の記事に書いたJDR登録も、新たな言語の習得のモチベーションになっています。緊急援助の現場で、標準語となるのは英語でしょう。しかし、スペイン語しか話せない・フランス語しか話せない、という人もいるかもしれません。そんなときにコミュニケーションが円滑に進めばいいな、とも思っています。

2016年3月8日火曜日

国際緊急援助隊(JDR)

 国際協力機構(JICA)は、ボランティア派遣事業だけではなく、非常に多くの事業を行っています。その一つが、国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief, JDR)の派遣です。JDRのチームには、救助チーム・医療チーム・専門家チーム・自衛隊部隊があり、それぞれの役割に応じて、被災国からの要請があれば、出動します。
 JOCVリハビリテーションネットワーク(PT・OT・STのJICAボランティア経験者の集まり、通称リハネット)からの情報で、JDR医療チームにおける理学療法士の役割に期待が高まっている、という話を聞きました。そこで、私なりにいろいろ調べて見ました。

①JDRについてはJICAのウェブサイトをご参照ください→ http://www.jica.go.jp/jdr/about/jdr.html
②最近の日本理学療法士協会からの会誌にJDR医療チームとして派遣されたPTさんの記事があります→ http://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/activity/news298/298_20.pdf
③2015年のネパールの大地震における理学療法士の役割についての文献が、WCPTのサイトからリンクされていました→http://www.wcpt.org/sites/wcpt.org/files/files/Nepal-JOSPT-sept2015-editorial.pdf
④WHO(世界保健機関)の災害時の障害とリハビリテーションについての特設ページです→http://www.who.int/disabilities/emergencies/en/
⑤同じくWHOから。病気・外傷の発生からリハビリテーションに至るまでの範囲をカバーできるチームが必要、と7段落目に書かれています→http://www.who.int/hac/emergency_workforce_february_2016/en/
⑥国境なき医師団(MSF)のclinical guidelineです。MSFの医師が現場で遭遇するであろう疾患の、現場での診断方法や処方の仕方が書かれています→http://refbooks.msf.org/msf_docs/en/clinical_guide/cg_en.pdf

 大規模災害が発生すると、大勢の怪我人や病人が医療施設に集まります。医師や看護師は、できるだけ多くの患者を救うため、緊急時のマニュアルに則り対処していきます。しかし、場合によっては対応可能な患者数を越え、病院はパンク状態になるかもしれません。さらに、治療が済んでも帰る所がなく、病院に患者が留まる場合もあります。帰る場所があっても、松葉杖がないと歩けない患者もいるでしょう。車イスで帰ろうにも、道が悪すぎて進めない可能性も考えられます。病院の近くにいた方が何かあった時に安心、と動こうとしない人もいるかもしれません。
 そこで、WHOは、災害時の外傷治療のみならず、その後のリハビリテーションにも対応する必要性を認識し始めたようです。効率よく治療し、退院させ、次の患者を受け入れる、という回転率の向上が重要です。そのために、退院先として自宅がない患者を受け入れる施設の設置(リハビリセンターのようなもの?)や、病院へと繋がる道の整備、歩行補助具や車いすなどのデバイスの提供・フィッティング・使用方法の指導などを行わなければならないと思います。
 第50回PT学会で、今後理学療法士には「社会参加・国際貢献」が求められてくるという提言があったそうです。国際貢献として青年海外協力隊に参加する理学療法士が増えることを願うとともに、大規模災害時に活躍できる人材を増やすための啓蒙活動も今後、必要でしょう。その一つの方法がJDRに登録する理学療法士を増やすことです。
 JDRに登録する条件に、PTとしての経験が5年以上、英検2級程度以上、などがあり、おそらく多くの人が語学の面で自身のキャリアにJDRという選択肢を除外してしまうだろうと思います。また、外国に行ったことのない人も多く、初めての渡航先が被災国というのもハードルが高いでしょう。どんな環境でも適応できる、なんでも食べられる、どこでも寝れる、外国語でもコミュニケーションが取れる、などの資質を持った人となると、青年海外協力隊の経験者が最適なのではないかと思っています。今後、理学療法士の帰国隊員にはJDRについての案内を帰国時オリエンテーションで行ってもいいのではないか、と思います。
 WHOが先月に⑤を出したように、今まさに理学療法士の緊急援助での活躍が期待されています。「鉄は熱いうちに打て」。4月からJDRの仮登録が始まる予定だそうなので、私も登録しようと思います。