以前、このブログでも障害平等研修(DET)について取り上げました(こちらをクリック→http://lily-international-cooperation.blogspot.com/2015/04/det.html?m=1) 。この障害平等研修をJICAや自身が代表を勤めるNGOで実施している久野研二さんの新しい書籍が発刊されましたので、さっそく購入しました。
『 社会の障害をみつけよう 一人ひとりが主役の障害平等研修』
現代書館 出版、久野研二 編著、2018/7/5 第1版
私が名古屋でDETの紹介講座を受けた時にも体験しましたが、障害とは何か、という問題提起が最初にあります。
「障害とは○○」
私は、障害を考える時、筋力低下や関節可動域制限などの機能障害(impairment)に注目し、それをいかに改善するかを自分の仕事としてきました。患者自身の問題点を解決しようとする「障害の個人モデル」の考え方です。今はあまり使われなくなっているICIDHの考え方です。病院で働いているだけならそれでもいいと思っていましたが、一人の人間としては不十分です。
全ての人は、自分自身が知らず知らずの間に障害者を排除したり、参加を制約したり、差別したりして不平等に扱ってしまっている社会に対して、目を向ける必要があります。そして、その社会をどのようにして改善すればいいか、考え、行動する必要があります。「障害の社会モデル」と言われる視点です。障害者を変えるのではなく、社会を変えるのです。ICIDHが抜本的に改定されたのも、その視点を得た結果で、ICIDH第2版ではなくICFと名前まで変わりました。
障害者を変えなければとimpairmentの治療に力を入れることは、障害者が望めば行うべきです。しかし、障害があっても平等に差別なく暮らせる社会を作ることも必要です。前者はPT/OTが専門とするところですが、後者は誰でも行動に移せます。誰もがするべきこととも言えると思います。
DETは発見型学習です。ですので、今回紹介した書籍は、DETを受講してから読む方がいいのかと思います。先に読んでしまうと、自分で発見せずに、本から受動的に学ぶことになってしまいます。
『人は自分で問題点を発見して、
解決策を考えることで初めて行動する』
この研修を通して、そしてこの書籍を読んで、障害の考え方が変わりました。今までICFを考える時、「なぜICIDHではダメなのか。ICIDHで十分ではないか」と思っていましたが、そもそもの「障害」という言葉の捉え方、視点が違うため議論が噛み合わないテーマなのだと気づきました。
企業の新人教育にDETを採用している所もあります。病院で働く私の意見としては、BLSのような使用頻度のほとんどない研修よりもDETの方がよほど重要ではないかと思います。(BLSが不要という意味ではありません)
DETを通して、自分が常識だと考えていることを批判的に見直して、新たな価値観を得る経験は、安定を求めがちな日本人的思考には非常に刺激的だと思います。久野さんも指摘しているように「日本人は講師と違う考えを持っている自分に不安を抱き、既存の枠組みの中で物事を考える」傾向があり、私自身も当てはまります。
例えば、ICIDHの枠組みから抜け出せなかったり、1つの治療技術に固執していたりしていました。そこから抜け出すには「混乱」を伴いましたし、今でもまだ混乱している自分がいます。しかし、この混乱は「考え続けていること」であると久野さんは述べており、DETではそのような状態になることが成功と言います。
思考停止してしまうと発展はしません。また一方的な関係から新たな考えも生まれません。新しい考えを排除するのは自分の枠組みの中でしか思考できていない証拠なので、「良い・悪い、正しい・間違っている」という表現は使いません。…など、様々な工夫がDETにはされており、そのためにファシリテーターは訓練されています。
社会の障害を考える研修にとどまらず、いろいろ他にも考えさせられる内容で、このblogの読者の皆様にはぜひお薦めしたい書籍となっています。
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